●プロジェクトの概要●
「レトロな飲食店をデザインしてほしい」とご依頼いただきました。私達は「レトロ」を再解釈することを目指してデザインを練りました。

「受話器」を使って、隠し扉が開いて入店する「アナログを体験」する飲食店です。街灯で明るく均一に照らされた通りとは様相が異なります。この空間は暈して視ると縁日のように、たくさんの色で溢れています。鮮やかな照明を凝らして視るとスーパーボールが並んでいると分かります。同色が3 個連続しない法則のランダムで、全体をじっくり見続けることでその法則が読み取れます。

スマートフォンや液晶テレビの普及により光情報は高画素になり、より多くの情報を表示することが重要な時代です。しかしブラウン管のテレビを凝視すると3 原色によるドットのノイズが見えました。黒電話ではブラウン管テレビのようなアナログな光情報体験ができるデザインを目指しました。この空間の光は原始的な発光装置そのものです。


●プロジェクトの経緯●
withコロナにより、レストラン運営形式では厳しくなった居ぬき飲食店の居酒屋への改装計画のご依頼でした。既存間仕切り壁などを撤去し大きなワンルームとすることで容易に居酒屋形態での運営はできることになります。しかし、それだけでは東京の激しい飲食店競争の中で注目を浴びることはできません。
私達は新たに入口の空間として真っ暗な空間をデザインしました。その空間にレトロな黒電話をアートのように配置し、「内線をかけることでスタッフさんが隠し扉を開けてくれる」入店システムを提案しました。このような耳にしたことのない入店システムはご依頼者様も驚きましたが、むしろチャンスとなるアイディアではないかと考えてください実現しました。私たちの積極的な提案が生んだデザインだと思います。


●プロジェクトを終えて●
ご依頼者様の信頼をいただけた提案内容により、設計と現場の工程は大変スムーズで設計と工事を合わせて3カ月程度で完成した計画です。そのスピード感の中で大変切れ味のあるデザインが実現できたと思います。しかし、オープンしてからしばらくして、これまでの長年の飲食店テナント利用により積み重なった油汚れで配管詰まりが発生しました。2度も業者さんが清掃に入ったそうですが、なぜか改善されませんでした。そこで私達に再度ご相談いただき、懇意にしている群馬県の配管清掃サービスをしている業者と供に現地へ乗り込み1日で改善することができました。

弊社の設計者としてだけでなく、ご依頼者様にとってのパートナーでありたい姿勢が現れたプロジェクトだと思います。