K9の設計では、既知のものと既視の物を掛け合わせて、実空間にすることでこれまでにない空間をつくれないかと試みた。

元々K9は赤いアーチのついた天井が特徴的なBARとして、３年間、別の場所で営業していた。オーナーも多くのお客さんも、内装への愛着があることから、なるべく内装は継承することを意識しながら、新店舗の設計をした。

新たにグループ席を作るということで、既存店のモールディング等の装飾的な内装を引用しながら、装飾性を一切排した空間を入れ込むことにした。装飾性の高い様式化したBARの内部空間に異質なミニマルな空間が組み込まれることで、オーセンティックバーでもなく、ミニマルなモダンデザインのバーでもない空間とすることができた。

いわゆる折衷というほどのミックスではなく、要素の主従は明確で、フランス料理の『〜を添えて』のような空間性に近い気がしているが、新店舗における、スパイスとして重要な要素となった。

オーセンティックバーは、いつかの時代感を留めた空間であるし、ミニマルなモダンデザインもある種の一神教的空間とも言える。今回の様式美の部分掘削というのは、とても現代的な回答であり、ポストモダン時代の折衷様式よりも、ゆるやかな要素の共存になるのではないかと可能性を感じている。