開業して７年目を迎える本物件に、オーナーの奥様が運営するクッキースタジオ「kammi lab」を併設する「一つの空間を二つの用途でシェアするため」の全面改装計画です。オーナー夫妻からは「美容室は以前の店舗の歴史を感じられるような雰囲気に。クッキースタジオは効率的で洗練された空間へ」という内容を求められました。

　それらを踏まえた設計趣旨として、再利用した材料にコンテンポラリーな要素を加える事で店舗が歩んできた歴史を尊重しつつ、建物固有の雰囲気やディテールを残しながら居心地が良くて思わず引き寄せられるような空間を目指しています。

　ここに初めて訪れた際に、一部露出した年代を感じる粗削りなコンクリート基礎に強いインパクトを覚えました。そこで「野晒しで放置されていた工業用建築物に設えた美容院」をテーマに空間構成を考えることで、この建物特有のインダストリアルそのものの雰囲気を店舗全体に活かし、ビジュアルは統一されながらも空気感の異なるスタジオを併設できるのではないかと考えました。

　まずは壁や天井全ての部分を取り除き建物の躯体を露出させ、コンクリートの色合いや質感を前面に出すことにこだわりました。また、コンクリート面を広くとることで暑い気候でも室内を涼しく保てるという実用的な面も考慮。

　次に、カットスペースの天井を曲面とするなど、硬い印象を和らげるよう要所で曲線を用いながら柔らかさを持たせバランスを整えました。
　クッキースタジオは、粗野な味わいの天井とモルタル床に白ペイントとシナ合板を合わせた静かで落ち着いたギャラリーのような空間に。

　さらに、カットチェア、照明器具、カップボード、ミラーなど、ほぼ全てをヴィンテージもので統一したことによって空間に魂が宿ったような感覚を覚えます。

　過去の店舗の素材にデザインの役割を担わせることで、コンクリートのインテリアが都会の空気を映し出し、素材そのものを活かした現代風の雰囲気を持つ空間を実現させました。
　デザインの背景を通してオーナーの想いや店舗のストーリーが伝わるものになり得たと感じています。